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記録として消費されないもの、瞬間に向かうこと

読んだ。

「レイヤー化する世界」などの著書で有名な佐々木俊尚さんの記事。この映画、今日公開だったよう。前からずっと楽しみにしてた。明日ぼくも見に行くつもりである。

ノーマのことは何かの本で読んでずっと頭の片隅に残っていた。ずっとエル・ブリと勘違いしていたのは誰にも言えない。というかエル・ブリ自体そんなに知らないのだけれど。

まあそんなことはどうでもよくて、佐々木俊尚さんのこの部分を誰かに読んで欲しかったんだけど、Twitterでつぶやくには意識が高ぶりすぎているような気もしていたからここに書く。

そこで、ふたつめの私の印象である。それは料理というのは、究極の「瞬間」の芸術だということだ。それは瞬間であるゆえにとてもはかない。

グローバルな美食の時代に、料理人たちはハリウッドの映画スターのようにもてはやされ、各界から賞賛される。しかし料理は、映画ではない。映画はデジタルデータとして記録され、いったん完成して配給されれば映画館でもネット配信でも半永久的に観られる。しかし料理は、食べる瞬間のそのとき限りである。

 

しかし料理には、数字はない。料理の写真は見ることができるし、調理している様子は動画で撮影できる。レシピもテキストとして残すことはできる。しかし客がテーブルで満喫した味や食感、においは二度と再現できない。嗅覚や味覚を記録できる手立てがないからだ。19世紀終わりの名料理人エスコフィエのレシピは彼の書いた料理本で知ることができるが、エスコフィエがみずからの手でつくった料理をそのまま再現することはできない。

「料理をたべる」という行為は、味覚や嗅覚のみならず、視覚も聴覚も触覚も、五感すべてが総動員されることである。そういう意味では、他の芸術にはない究極の五感のアートであり、だからこそ二度と再現できない瞬間のアートでもある。

 

記録できないもの、再現できないもの、というテーマに今は興味が湧いている。その瞬間でしか味わえないものに価値が集まるんじゃないか。

ということを考え始めたのも、広告業界の会社員となり、テレビの視聴率がどうとかってことをひたすら叩きこまれているからである。ちなみに今テレビの視聴率が下がっている原因はいくつかあるけれど、その一つはタイムシフト視聴というものにあるらしい。

タイムシフト視聴というのは、要は録画して後で見ようっていう行動のこと。

 

いつでも見れるなら、いま見なくてもいい。そういう考えが根底にはあって、そういった一時的に、半永久的にアーカイブ(保存)できるものが増えていって、そのひとつひとつの価値がじわじわと減っているような気がする。

たとえば、webサービスに多少なりとも知識がある人ならば当然だろうけれど、evernote、そのweb clipperやInstapaper、Pocketなどの後でよむ系サービスもそう。iPhoneユーザーの多くが使ってるだろうSafariのリーディングリストもそう。いますぐ消費することはせずにとりあえず一時的に保存しておく。

コンテンツの量が増え、もっと消費したいという欲求があったら保存しておくサービスが出てきたり人気になるのは当たり前だし、その次に増えすぎたコンテンツの中から選んでくれるサービス(キュレーション)が出てくるのもよくわかる。

 

そう、これがテレビなんです。
テレビとは、要は「今この瞬間、世間が一番見たいものを見せる」――これに尽きます。派手な演出とか、豪華な出演者とかは二の次。分かりやすいのはスポーツ中継でしょう。サッカーW杯やオリンピックの日本絡みのゲームが高視聴率をとるのは、要は今この瞬間、世間が一番見たいものを見せてくれるから(現に録画でサッカーの試合を見ると死ぬほどつまらないでしょ?)。ドラマ『半沢直樹』が驚異の高視聴率だったのも、単純に続きが気になる世間の人たちが大勢いて、彼らは録画じゃなくて真っ先にオンエアを見たかったからである。

 

保存という行為があたり前になるほど/再現性が高まるほど、再現できないものに価値が出る。生のもの、そこでしか見られないものに価値を感じるようになる。

色々言ったけど、希少性というもっとわかりやすい言葉がありました。

 

 

……

 

みたいなことを最近考えていたので、ノーマについて佐々木さんが書いていたことは非常によくわかった。食がアートになっていくこともおもしろいと思ったし、一方で料理を科学で分解していくアプローチも大変興味深い。

 

好きなブログのひとつ。

 

料理と科学のおいしい出会い: 分子調理が食の常識を変える (DOJIN選書)

料理と科学のおいしい出会い: 分子調理が食の常識を変える (DOJIN選書)

 

こちらの本も出版されているよう。まだチェックできていないが、近いうちに蔦屋書店あたりで手にとって見たい。

 

また、博報堂の恋する芸術と科学ラボが、jozo2050というプロジェクトをやっていて、その特集した雑誌?を1000部限定で代官山蔦屋書店で販売してた。

jozo2050

こちらはサイト。

食を科学と芸術の両面から解体する取り組みはとても興味深い。